【思い出】マビノギの思い出

皆さんはリンゴ魔人という言葉をご存じだろうか?

おそらくマビノギをプレイしたことがある人なら聞いたことがある人も多いと思う。
知らない人のために簡単に説明すると……

マビノギでは転生(リセット)を行うことで、スキルポイント(AP)を稼ぎ、それを繰り返してスキルを沢山取り、強くなるゲームなのだけど、それとは別に、食べ物を食べることで永続的にステータスを上げることが出来る。上昇したステータスは転生することでリセットされてしまうので、あえて転生をせずにリンゴを食べ続けることで、DEXを極限まで上げ続け、驚異的な遠距離ダメージを出せるようになったキャラのことをリンゴ魔人と言う。(wiki


(参考動画)

実はこれを最初に始めたのが僕だったりする。

僕にとってマビノギは特に思い入れのあるゲームタイトルの一つなんだけど、この話をする前に、当時の僕のリアルについて話しておこうと思う。

僕は昔、あるゲーム会社でゲームプログラマーをしていたんだけど、その会社で動いていたプロジェクトがほぼ同時期に3つポシャるという事態が起き、急遽他のゲーム会社に派遣に出されることになった。

しかし、派遣先のプロジェクトがいきなりデスマーチ。

元々体の弱い僕は無理をして、よくある皮膚病を発症してしまった。よくあると言っても、休みなし、泊り続きで皮膚病は最悪の状況に悪化。(リアルで相当禿げたw)

9か月後やっとプロジェクトを終えるも、会社に戻ると『うちではもうゲームは作らない。パチスロは作るけど、それ以外だと出向になる』と言われ、皮膚病も治したかったのでそのまま会社を辞めることにした。

マビノギのオープンベータが始まったのはちょうどそんな時のことだった。

自分のMMORPGを作ることが夢の僕は、システムを精査し、舐め回すようにプレイするのが好きだったのだが、このゲームのキャラクターを成長させる方法は、転生させて、ステータスボーナスを得るか、料理を食べることで、ステータスを上昇されるかの二つに一つだった。

転生させると、料理によるステータスボーナスがリセットされるため、逆に転生させずに、料理を食べ続けた場合、どうなるのかが気になり、この時もそれを実践、検証してみようと思った。

当時、すでに攻略wikiは存在していたけれど、食べ物に関しての情報は少なかった。しかし、ある程度は何を食べると何のステータスが上がるのかは分かっていた。

まずは何を食べるのかを決めることから始めたわけだけど、僕は最初からリンゴに目をつけていた。それには複数理由がある。

・DEXが上昇する果物類は食べると痩せるから。(肉やパンは食べると太る。デブは嫌だよねw)
・DEXが上昇する食べ物は満腹度が上がりにくく、沢山食べることが出来たから。
・リンゴは非売品であり、僕が制作者なら効果を高くすると思ったから。

計測の仕方は、対象の食べ物を食べ続け、DEXが上がってから次にDEXが上昇するまでに必要な個数を数えるといったもの。まず、イチゴと木の実を見て、次にリンゴを食べてその上昇率の高さに確証を持ちすぐさまリンゴを食べ続ける生活に移行した。

しかし、これがなかなか大変な作業だった。

まず、リンゴだが、これは店で売られていないから自分で調達する必要がある。その方法がリンゴの木を叩くという単純作業なのだけど、これがなかなかドロップしない。ドロップしても、満腹度が上がりにくいから大量に必要になってくる。

さらに、いくらリンゴでDEXが上がると言っても微々たるもので、効率を考えると寝ている時間も無駄にできない。

最初は3時間寝て、起きてはリンゴを食べ、また3時間寝るといった努力をしていたが、それではあまりにも眠いのでマクロで自動的にリンゴを食べるようにした。それでも、パソコンの騒音と、ちゃんと食べれてるか気になって熟睡できなかった。

また、寝ている間に食べるリンゴも調達しなければいけないので、1日の大半をリンゴの木を叩くという作業に費やさなければならなかった。

次にAP(スキルポイント)の問題。転生を一度もしていないから、とにかくAPが無い。今だと、イベントでAPが貰えるみたいだけど、この時代はそもそもイベント自体なかったと思う。

最終的に取った方法は、スキルを一旦上げて、下げるというもの。

どういう意味かというと、スキルを上げることで、受けられるクエストがあって、それの報酬としてAPを少しだけもらうことが出来る。

これを利用し、APを回収したら、課金サービスでもらえるスキルアントレインカプセルでスキルレベルを下げAPを戻すといった、まるで小銭を集めるかのような面倒な作業をしなければならなかった。

しかし、そんな努力のかいもあり、僕のキャラはみるみる強くなった。

当時、固定のフレンドが二人いて、一緒に高難易度コンテンツを攻略して遊ぶ日々を送っていたんだけど、僕の桁違いのマグナムショットでボスを瞬殺する様にみんな大笑いしていた。

まだ誰もつけていない『器用な』タイトル(DEX200到達で得られる)をいち早く身に着けて僕はとても得意げだった。

そんなある日、固定外のフレンドを一人入れて遊んでいると、その子が「私レジェさん(固定の一人)を目標にする」といった。

レジェさんは「ピュアさん(僕のキャラクター名のピュアハート)じゃないの?」といった。
僕も疑問だった。

すると、その子は「ピュアさんは凄すぎて目標にできない」と答えた。それを聞いた僕はただ「w」と返したけど、内心は気持ちよさに震えていたw

この時の状態をラノベのタイトルで表すと、『無職未転生 ~異世界でリンゴを食べ続け最強弓手生活~』といった感じだろうか?

名実ともに、マビノギで最強の座に君臨していたのは間違いなかった。
しかし、不安なことも沢山あった。

まず、システム的なキャップの問題。

DEXの上限、もしくは食べ物で上昇する値にキャップがあれば、未転生の僕のキャラは時間が立つほど相対的に弱くなっていくことになる。

次に後追いプレイヤーの問題。

約2か月ぐらいのリンゴ生活で僕のキャラのDEXは400(うろ覚え)を超えていたと思うんだけど、そのあたりから『器用な』タイトルをつけるプレイヤーが出始めた。僕は優位性を確保するため、どうやってDEXを高めているのか、フレンドにも内緒にしていた。しかし、『器用な』タイトルを身に着けて、ずっとダンバートン(中心の町)のリンゴの木を叩き続けていたのだから気が付く人が出ても仕方のないことだった。

ダメージ計算式は減算的な部分が大きく、200と400では2倍以上の差があるわけだけど、この先上がり続けると差はどんどん縮まってしまう。さらに、未転生の僕のキャラは差を詰められるほど優位性が消える可能性が高かった。

そして、最も大きな不安は、僕が無職だということ。

当時最も怖かったのが、朝の決まった時間に階段を駆け下りるOLの足音。それを聞くたびに、僕が無職であるという現実をヒシヒシと思い知らされた。思えば、学生時代からそのままインターンでゲーム会社に就職したわけで、生まれてこの方、空白の期間なんて1日も無かったわけだ。

それに、当時は一人暮らし。社会人になってまだ2年の僕には貯金が少なかった。月々の家賃や水道光熱費、食費で貯金が目に見えて減っていき、この生活が長くは続かないことが分かりきっていた。皮膚の状態もだいぶ良く、もう普通に働いても全く問題ないまでに快復していた。

僕は悩んだ。
マビノギで最強の座にあり続けるには仕事をせずにリンゴを食べ続けなければならない。

僕にとってマビノギは、当初のシステム調査という目的を大きく外れ、生活の中心に存在していた。ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことだw

たかがゲームでと思うかもしれないけど、今だとスマホで数百万と課金する人が結構いるわけだ。マビノギという人気タイトルにはそれだけの価値を見出す人も多いのではないだろうか?

できれば、僕もそうしたかった。
でも、いずれ近いうちに終わりが来るわけだから、決断すべきだと思った。

それに、もう一つ、気になることがあった。

それは、食べ物を食べ続けてDEXがめちゃくちゃ高くなったキャラクターを転生させたらどうなるのかということ。本来のシステムでは料理で上げたステータスは転生したらなかったことにされる。しかし、ここまで努力をしたのだから、何かしらあるのではないかと思った。

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その心情はまさにこれ。特別な努力をしてきたわけだから、その見返りに特殊なタイトルを貰えるのではないかと思った。

それに、このまま何もせずに落ちこぼれるピュアハートの姿を見たくなかった。このまま転生をすれば最強の座のままレジェンドになれると思った。

僕は早速ピュアハートを転生させた。

……。

結果は何もなかった。
いや、そこには最強の座から、最弱の座に一瞬で転落したピュアハートがいた。
転生回数は1。

胸にじーんとくるものがあった。
しかし、僕の心は穏やかだった。
とてもしんどい戦いが終わったのだ。

これからはリンゴの木を叩かなくていい。
安眠もできる。
そして、働くことが出来るのだ。

僕は親しいフレンドに何も言わずにキャラクターを消すと、エリンを立ち去った。
(だから、今ピュアハートというキャラがいても僕とは別人です)

ちなみに、仕事の方は、派遣された会社に声をかけて入社することが出来た。

今となってはいい思い出だw

2 件のコメント:

  1. 面白い記事でした。マビノギはそれなりに長い期間プレイしていたけども、リンゴ魔人という単語を初めて見ましたw だいぶ初期の話なのかな?
    TOS記事もそうですが、プレイのベクトルがバグ探し…というか開発の想定外の遊び方を探しているように見えて新鮮でした。プレイの目的は全然違うけどROのTENPAIと似た空気を感じて懐かしかったです

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  2. コメントありがとうございます。
    実は僕もリンゴ魔人については詳しくないです。
    たまたま動画で見つけてこんなことあったなぁと思い出した感じですw
    ROのTENPAIは僕も好きです。
    また動画を見たくなってしまいましたw

    返信削除

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